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コラム

2008/05/12

トウー教授とチャウ教授

両師ともこの国では名の通った教授である。トウー(Nguyen Tai Thu)教授は1931年に首都ハノイに生まれた。現在はヴィエナム鍼灸医学大学の学長、大学付属病院院長、ヴィエトナム鍼灸学会会長等の要職に在る。著書も数多く出版し、海外講演、国外研修医の指導などと、幅広い活躍を続けている。抜群の知名度を誇り、全国津々浦々まで知れ渡った名医である。
ヴィエナムでは年輩の知識人は概ねフランス語が堪能で、世代が若くなればなるほど英語人口が多くなる。トウー教授以外の医局の医師たちは、電話をかけてくるとき、1名を除き皆さん英語であるが、うんと若くなると英語も話さないので、必定此方がヴィエトナム語を理解しなければならない。その時は痛切に必要性を感じるのだが、帰国後未だに真剣にヴィエトナム語の勉強に打ち込んでいない。
トウー教授も同世代の知識人同様に、綺麗なフランス語を話した。私が教授を初めて訪問した時は、用心の為にヴィエトナム語と英語を通訳してくれる方を連れて行ったが、自己紹介が済んで、お互いにフランス語で対話できると知って、教授は通訳抜で病棟を案内して下さった。患者の殆どは、怪我や慢性疾患で入院治療を受けているようであった。特に希望して、薬物中毒患者の病棟を見学させてもらった。若い青白い気の弱そうな青年が、怯えながら私の質問に受け答えしていたのが、今でも忘れられない。常時5~7名の中毒患者を受け入れ、1週間で退院させる、との説明であったが、性急過ぎて完治しない内に追い出しているのでは?と一瞬思ったが、経験豊かな名医ならではの技能かと思う事にし た。

チャウ教授はホーチミン市人民委員会公認のヴィエトナム伝統医療の研究に従事する臨床家である。チャウ教授の療法は、中国医学の古典思想である霊枢に記載されている「天人合一」の思想に基づいているが、実際の治療に関しては、時折インドやチベット医学の療法が顔を覗かせる。教授の考え方によると、顔は全身の症状を表す。同じ様な考え方はインドの伝承医療にも記されているので、考え方そのものは目新しくないが、これを鍼治療に応用している点が、ユニークな存在である。まず眉が腕の部分を示し、額が鼻より上の顔面部を占める。鼻は胸部、上顎は腹部、下顎は足を示している。足裏、耳、手や指で全身の徴候を診断するのに似ているが、何れも経験を必要とする特殊技術で、誰でもできる技ではない。チャウ教授の病院では、治療費は原則として無料。ただし、経済力があり、支払い可能な患者は自分の資力に応じて寄付をする。治療技術の取得を希望する者には、有料で技術指導も行う。技術取得に関する資格はそれほど厳しくは無いらしく、原則として強い意志のある者を受け入れているようだ。特に薬物中毒患者の治療家養成には特別な思いがあるようで、ことのほか熱心な様子であった。

ここで私見を述べさせていただくならば、伝承医療を治療に応用するに際して、果たして、中国系、インド系、アラブ系、ギリシャ系などなど系統分類する必要があるだろうか。人間はその土地土地で地域環境に適応すべく、創意工夫する。また世代を受け継いでいく最中に、地域環境に適した体型や遺伝情報を取得する。アメリカインデアンの間で問題になっている糖尿病遺伝子や、サハラ住民の標準体型などが挙げられる。人間は日々の営みの中で、それぞれの知識と経験を積み重ね、時には病や災難と闘いながら、世代を受け継いで行く。病や災難を防ぐ知恵は、環境や人種の違いなどから普遍的でない方法があっても当然である。居住地の自然環境によって病気の種類や頻度が異なり、薬源の生息も影響を受ける。また同じ薬源でも、収穫後の処理方法により薬効に差が生じる。
ヴィエトナム伝統医療は交易により伝わったと言われているが、何時頃どんな形で伝わったかは定かでない。ただ野生動物の中には、ヒマラヤ、チベット、ベンガル、ボルネオ、マレー、中国大陸等々に共通するほ乳類が生息している。インドシナ住民の部族ルーツなどから推測して、この動物種の多彩さは、人間の移動や交流によってもたらされた可能性は否定できないであろう。しかし当地の伝統医療が、他民族に共通する部分を持つことについては、チャウ教授が主張するように、当国独自の知恵なのかも知れない。場所を異にしながら、異なる人同士が全く同じ事を同時に思いつき、同じ行動をとる事も珍しくは無いのである。