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コラム

2008/05/12

第3話 砂漠・民のいとなみ

砂漠とは年間降水量200mm以下に対して蒸発散量が2000mm近い乾燥、半乾燥地帯である。そんな渇いた大地にも人は住み、日々の生活を営んでいる。

大干魃の怖さは、幾世代かけて成長した樹木が数ヶ月間で枯れてしまう。一度枯れた樹木は再生する事はなく、自然の植生が失われて忽ち砂漠化が加速する。

砂漠化の問題は一見、そこに住む住民の問題のようにも見えるが、地球温暖化に伴う気候変動が影響しているとも言われている。住民は煮炊き用に薪炭材を消費するが、人口増加と相まって燃料に供される薪炭材消費量は増加の一途を辿っている。今回は、かつて勤務したサハラ砂漠での体験を中心に、砂漠住民の営みを垣間見つつ、酷暑と渇いた大地に生きる住民が培った知恵を紹介したい。

砂漠では、最も暑い時には四十五度以上にもなる。暑いと言うものではない、「痛い」光が肌を刺す。針や棘で刺すような痛さである。焼けるような痛みは、その後におとずれる。発汗はするが、汗は体外に出るや否や忽ち蒸発し、体表に白く小さな縞模様の痕跡を残す。最暑期の昼過ぎに屋外を歩くのは外来者で、地元住民は誰も外出しない。駱駝も羊も木陰に身を寄せ合って、寝そべっている。日が蔭り暑さが和らぐと、途端に賑やかになる。身を隠していた生き物が、涼を求めて一斉に屋外に繰り出す。

熱帯多雨地帯の夜と異なり、砂漠には漆黒の闇が無い。天蓋に張り付いた星明かりが地面に反射し、物の識別ができるし、微かに影ができる。仰向けになると、百八十度に星が輝き、まるで自分が星の球体の中に浮いたような感じがする。月夜になると地平線まで見渡せ、月焼けをしないかと心配するほど明るい。夜は気温が急激に降下するで、暖をとる期間もある。赴任当初、昼の暑さに辟易して軽装で寝込み、夜半に寒さに震えて目覚める事もあった。また、大干魃の最中に、北欧医師団に同行してサハラ砂漠を横断の途中、自動車が故障して野宿するはめになった。砂地に人丈半分ほどの縦穴を掘り、塹壕に身を沈めて風を凌ぐが。親切な村人が生きた羊を入れると暖かいと言うので、羊と同穴で寝る事にした。確かに羊の体温が伝わって暖かいが、急に鳴いたり、息を吹きかけられたりして、熟睡できなかった。

二カ月間の雨季を除いて、野菜を採取する機会は無く、食料は全て家畜に頼る。肉は殆ど生焼けで食べる。つまり、血液からもビタミンを採るし、内容物の入った臓物を煮て食べることで栄養を摂る。解熱には駱駝の尿を飲ませる。大丈夫かと若い医者に尋ねると、「昔からの風習」と答えた。

(1)
搾乳した羊の乳を瓢箪の容器にいれると、3時間後には醗酵酸乳になる。普段は乳を飲み、ナツメ椰子の実を囓りながら生活している。彼等も、極度に体力を消耗した者には、生きた羊や駱駝を瀉血して、生血を即席の栄養補給剤として飲ませる。砂漠の民は動物を粗末にしないし、大型家畜を賭殺しない。遊牧民にとっては家畜が財産であり、所有家畜頭数が富の象徴である。

家畜の用途は、結納、諍いの調停、時には犯罪の罰金の代わりにもなる。そんな大切な財産であるが、飢饉の中にいる村民は我々調査団に精一杯のもてなしをしようと、隣村から家畜を運んできて、夕飯をご馳走してくれた。また人気の無い路肩に暫く停車している と、どこからともなく人声がする。遙か彼方に点のような影が次第に姿を現し、大丈夫か、何か困った事は無いか、と尋ねてくる。

さて、私は野菜不足を補う為に、毎日一握りのささげ(豆)を砂に埋めて朝夕散水する。すると、三日程で砂の中にモヤシができる。モヤシは忽ち緑色に着色し生臭くなるが、それでも周年採取可能な緑黄野菜であり、炒物、ハンバーグの混和材として味は抜群、客をもてなすにも貴重な食材であった。

ローマからサハラに転勤した村は、チャド湖に近いバガ村であった。言語はハウサ語で村人達の挨拶はまず、「やーや」から始まり、家族や家畜の安否を尋ねるのが礼儀とされている。「この忙しいのに!」と思いながらも、地元の有力者と出会ったなら、長い長い挨拶を交わす。大方相手は、以前に聞いた話を繰り返す。

予防接種の案内はラジオ放送、実施は青空市の日に、仮装と鳴り物で呼び込みをした。また、映写会の幕間に、掛け合い漫才や寸劇で薬源の採取・保存・用途を教え、さらには村の衛生普及員や伝統的助産介助婦の役割を紹介した。住民参加の素人芝居は、口笛、雄叫び、拍手、笑いありで、映画にも劣らぬ大盛況だった。

手を洗う。幼児に煮沸殺菌した水を飲ます。たったこれだけの事だが、普及は至難の業であった。普及率の良い家庭では、母親がある程度理解力があるか、義務教育上級学級に通う女児がいた。どうも、子供が親を教育するようだ。

ニジェール河湖畔では、ハマターンが最大になる年末頃の新月に闇夜が訪れる。闇は宵から十時頃までの間で、深夜になると再び満天の星空に戻る。さて、その闇の時間帯に、黄泉の国から先祖や家畜が訪れる。そこで急激な人口増加となり、交通混乱を助長する。無灯火車が多いことも相まって、交通事故が多発するのではないか、と我々はふざけているが、信仰心の厚い家庭では、闇夜には余分な食事を準備し、火を焚いて先祖を迎える。
東北東方向から吹く季節風のハマターンが、砂漠から微細な砂塵を吹き上げ、太陽を翳める。太陽光が地上に到達しないから、日中も気温が上がらない。未明には3、4度まで降下する。低温に慣れていない住民の多くは、風邪、マラリア、下痢、神経痛などを煩う。時にはコレラが流行する。一年で医療従事者が最も多忙な時期である。一方この低温期には、野菜栽培ができて久々に生鮮野菜にありつける。

(2)
サハラは一部の東南アジアや南米アマゾン地帯の僻地と比較すると、現代医療が浸透している。旧フランス植民地の影響からか、首都では仏、伊、独、スカンジナビア諸国からの援助で、医療設備はまあまあ整備されている。ただ、機器の保守点検技術の脆弱さが禍いするのであろうか、何れの機器も短命で、一度故障すると忽ちお蔵入りか、展示品と化す。

オンコセルコスはブヨが溜まり水に産卵し、それを飲んだ人の体内でふ化し、血液で運ばれた虫が水晶体を喰い、人間を盲目にしてしまう西アフリカの風土病である。これまで、諸々の対策が講じられてきたが、今でも根絶には至っていない。煮沸するか、ブヨが飛来しない深層地下水を飲用すれば予防できる事は知られている。
サン・テグジュペリ著「星の王子さま」の一節を引用するまでもなく、砂漠の地下には帯水層が広がって水資源には事欠かないが、井戸が少なく、慢性的な水不足である。水汲みは女子供達の重要な仕事で、それに費やす時間も大きい。

サハラでは祈祷師と占い師が混在して、職域や役割分担が明確でない。占いには、太陽、風、月、渡り鳥、火炎、煙、鏡、水晶球、木切れ、骨などが使われる。霊 媒師の語りには、黄泉の国と現世の境が無く、生き生きとした語り口に説得力を感じる。祝祭事には、太鼓に合わせて手を叩き、足で大地を踏み鳴らし歌い踊る。単調な調べではあるが、躍動感に満ち溢れている。祈祷師の活躍舞台は、雨乞い、占い、葬儀、厄除けなどである。天変地異を予言するような大きな力は要求されない。昔は雨乞いに処女を生け贄として捧げたと言われているが、今日では鶏か子羊を備える。

呪いとしては、他人の妬みを除ける慣わしとして、自分の小便をかけるなどの風習がある。私自身も、現地の風習に従って、日本から届いた新車に小便をかけ、厄除けをした。現地では、回教やキリスト教と伝統的なアミニズムが、調和しながら住民生活を支えている。砂漠では干魃の後に屡々豪雨が起きるが、祈祷師の力が強すぎたか、神様が計算間違いをして、過剰降雨をもたらしたと考えられている。

ニジェールの首都ニアメ市で、面白い昔話を聞いた。物語は河の水神、湖畔の神、渇いた砂漠の神が自分の出身地の自慢話を始めた。各神々が自分の再生を語っているが、一番寿命が短い湖畔住民は人生二五年。水神の住民は三十年。砂漠神三十五年。察するに、乾燥した砂漠は病原菌が少ないので、偏食に陥りがちな危険はあるが、寿命は長い。一見過酷な生活環境下にある砂漠の方が、絶え間なく病源に曝されるよりは長生きできるようだ。伝承民話の数値が統計上の数値と一致したのには感激した。

砂漠の植物は、何れも乾燥に耐えながら再生を繰り返し、世代の継承を営んでいる。稲科植物は二,三回の降雨で発芽し、二週間で成長し、三週間で結実する。豆科の樹木は雨期に繁茂し、乾期には落葉し、偽枯化する。中には葉を持たず、幹に葉緑素を蓄えて、同化作用を営む植物もある。砂漠の植物は、棘や毒で動物からの食害を免れるので、何れもが薬効を持つ、と言っても過言ではない。

(3)
乾燥地で花を咲かせる植物の殆どは、甘い芳香を放つ。植生の乏しい地帯で、昆虫を引き寄せるには、風に匂いを乗せて遠くまで送り、自分の所在をアピールする。

砂漠では地表面を大気が流れ、匂いも音も遠方まで届けられる。昆虫は地表を這う風の中に匂いを嗅ぎ、上昇気流に乗り、視野には入っていない花の香を求めて飛行し、花密を採集する。帰路は高度を下げ、追い風に吹流されて巣に戻る。

砂漠の糖源は、棗椰子、無花果、粟、稗の類のホニオ等々、多様である。藪や高木の枝先に、野生蜜蜂が巣を作る。蜂蜜大好きなフランス人達でさえ、これほど上手い蜂蜜は無い、と太鼓判を押す。砂漠でも部分的には湿地帯が広がり、潜在食糧生産力の高い豊潤な大地が残っている。

<地元で用いられる代表的な薬用植物とその用途>

1. アカシア アルビダ:樹枝は20-30%のタンニンを含む。樹脂、実、葉を煎じ、風邪、歯痛などに効く。難産後に、樹皮エキスを椰子油に混ぜて飲む。その他、皮膚に塗布。根を煎じると肺炎に効く。その他のアカシア樹の用途も、ほぼ同じ。
2. バラニテス:サポニンを多く含む。ギニア回虫(Dracunculus medinensis)に有効。
3. ポッシア:煎じて神経痛、梅毒、ハンセン病に効くと言う。
4. バオバブ:果実はビタミンB、Cに富む。解熱、下痢、喘息など用途が広い。
5. 野生メロン:解熱、駆虫、健胃に用いる。
6. 団扇サボテン:果実は腸内浄化。茎は腱胃、解熱に用いる。
7. その他:詳細は下記の出版物をご参考下さい。
①GTZ:砂漠・サバンナの植物
②ニジェール国政府刊行物
③砂漠・民のいとなみ(株)ジュステム 並里(1998年)。