診療のご案内


 

皮膚科診察受付
携帯サイト

診療時間・アクセス

■診療時間・診療日
 こちらをご覧ください。

■アクセス
 埼玉県所沢市中富1037-1
 電話:04-2990-5818
 詳細はこちらをご覧ください。

詳しい地図を見る
詳しい地図を見る

デイサービスおうえん
トップページ > 診療のご案内 > 皮膚科 > 疥癬

疥癬

近頃「疥癬」は、珍しい病気ではなくなりました。日本では、かつて第二次世界大戦直後に蔓延したそうですが、その後急速に減少しました。1975年ごろに再び流行が始まりましたが、この時はほとんどが性感染症として持ち込まれたもので、多くは20才代の男女と子供にみられました。その後もこの感染症はすっかり消失することはなく、くすぶり続けていたようですが、近年かなり増えているように感じています。

現在の患者さんの多くは、30~50才代の女性と、60才以上の男女です。高齢者が集団で生活する場が急増し、そこで介護する人々の中で感染が続いていることを裏付けています。

めずらしい病気ではなくなっているにもかかわらず、 診断と治療の基準が必ずしも遵守されていないことが多いように思われますので、疥癬について簡単にまとめました。

--

図1
図1
図2
図2

病原体

ヒゼンダニが、ヒトの皮膚の角質層に寄生することによって発症します。メスの成虫は体長約0.4mm、オスはその3分の1くらいです。宿主特異性が強いので、猫や犬などとの人獣共通感染は起きません。ヒトの皮膚を離れた成虫は、通常の室温・湿度では約2、3時間で、宿主に取り付く力を失ってしまいます。素早く動くことはできません。37℃では1分間に2.5cmくらい動けるようですが、16℃以下ではほとんど動けなくなってしまいます。また乾燥には、特に弱いようです。

メスのヒゼンダニは、皮膚の角層内に疥癬トンネルを作り、その中で約1カ月間排卵し続けます。卵から孵化し、幼虫、成虫となって産卵するまでの一世代の長さは、10-14日。皮膚を刺したり吸血することはなく、特徴的なかゆみは、ダニの脱皮殻や糞などに対する、アレルギー反応によるものです。

--

潜伏期

通常の疥癬と角化型疥癬(ノルウェー疥癬)では、大きく異なります。

<通常の疥癬からの乾癬の場合>

感染したダニが増え、さらにダニに対して「感作」が成立してアレルギー反応が生じるまでの期間が約1カ月。この期間が潜伏期となります。

<角化型疥癬からの乾癬の場合>

一度に多数のヒゼンダニに暴露されるため、増殖に必要な時間が短縮され、早ければ4、5日で発症します。

--

病像

通常の疥癬と角化型疥癬とは、大きく異なります。日常遭遇する患者さんのほとんどは通常の疥癬で、角化型疥癬は稀です。

図3
図3
図3(写真をクリックして拡大)

<通常の疥癬>

顔、頸には皮疹ができません。赤い小丘疹が、臍の周り、腹部、胸、腋、大腿内側などに散在しますが、湿疹などとよく似ています。このような部位からはダニが見つけにくいのですが、注意深く多くの部位より角層の一部を採って顕微鏡で観察すると、しばしば虫体、虫卵が見つかります。アレルギー反応による強い痒みがあります。

 また外陰部、腋、ひじ、臀部などに、小豆大の結節を認めることがありますが、これもアレルギー反応で、ダニの死滅後もしばしば持続すます。 

疥癬トンネルは唯一疥癬に特徴的な皮疹で、手首、手掌、指間などに認めやすく、虫体、虫卵が見つけやすい部位です。

<角化型疥癬>

重症感染症、悪性腫瘍などの基礎疾患があり免疫力の低下している場合や、全身状態が著明に低下した高齢者などにみられます。日常経験するのは、高齢者にステロイド外用剤の長期投与が続いた場合に、通常の疥癬から角化型疥癬に移行した例が多いです。

肘、膝などの突出部、臀部や躯幹の摩擦を受けやすい部位、頭頚部や耳介などに、厚い垢のように見える角化物が見られます。爪に寄生すると、爪白癬(爪のミズムシ)と酷似します。爪のダニには内服薬が効かないので、外用剤を浸透させる様々な工夫が必要です。角化型では、疥癬特有の痒みを伴わないことも多いです。これは免疫力の低下によって、アレルギー反応が起きなくなっていることを示します。

--

感染経路と感染防御

<通常疥癬の場合>

皮膚と皮膚が長時間接触する場合や、暖かい環境で皮膚が長時間近接している場合など、例えば布団が重なり合って雑魚寝する場合には感染が起き得ます。衣類着脱の介助やオムツ交換程度の介護では感染しません。また衣類の上からは感染しません。ですから患者隔離の必要は無く、介護者は通常の手洗いのみでかまいません。ただし、長時間にわたって手を握ったりさすったりする行為は避けて下さい。皮膚に外用剤を塗る場合は、手袋を使います。つまり、手袋以外の特別な予防は不要です。

<角化型疥癬の場合>

一人の患者さんに寄生するヒゼンダニの数が、通常疥癬の1000倍から2000倍にもなるので、短期間の接触でも感染しますし、感染から発症までの潜伏期も短いです(数日くらい)。皮膚の落屑中に多くの虫体が生きているため、同室者や周りの人々にも飛沫感染のような形で感染する可能性が高く、患者隔離が必要です。患者さんの使用した室内は2週間閉鎖しますが、直ぐに使用する場合は、ピレスロイド系の殺虫剤を噴霧します。診断後間もない患者さんを介護する場合は、基本的なガウンテクニックを採用します。約2週間、患者の衣類やリネン類はビニール袋に入れて運び、50℃以上の湯に5分間浸けてから洗濯するなどの注意を要します。

--

治療

イベルメクチンの経口投与が保険適応されています。通常一週間間隔で、2回投与します。(内服量:体重1kgあたり200μgで1錠中に3mg含まれていますから、体重60kgの場合、1回に4錠内服)

外用剤には、イオウ剤、安息香酸ベンジル、クロタミトンがあります。諸外国では、γ-BHCが使われていますが、毒性が強く日本では発売が禁止されています。

1. イオウ剤
毒性は低いのですが、時に皮膚炎を起こします。我々の経験では、チアントール(有機イオウ剤)は刺激が少なく、使いやすいです。頚部より下の全身に外用して、24時間後に洗い落とします。これを5日~7日間繰り返します。

2. 安息香酸ベンジル
12.5~35%のローション剤として使います。1と同様の方法で、2回外用します。

3. クロタミトン
オイラックスは、10%のクロタミトン含有軟膏で、同様の使用法で約2週間続けます。

1~2週間隔で2回連続してヒゼンダニを検出できず、疥癬トンネルの新生がない場合に治癒と判定します。ただし再燃することがあるため、特に高齢者では2,3カ月間は観察して下さい。

以上、疥癬についての基本的な特徴を簡単に述べました。日常遭遇するのはほとんどが通常の疥癬です。診断が決まれば治療は困難ではありません。

介護施設における不必要・無意味な過剰反応は、患者・利用者へのサービスを著しく低下させます。まず通常の疥癬と角化型疥癬を厳密に区別して、治療計画を立てて下さい。診断確定後速やかに適切に対処すれば、更なる感染は十分防げます。また、施設利用者に無差別に抗疥癬剤を塗布すると、虫体の発見はきわめて困難となり、患者発見を遅らせて更なる感染拡大に繋がります。一方、治療終了後も延々と使い続ける例も見られますが、不必要であるばかりでなく、抗疥癬剤は大なり小なり毒物であることを思い出して下さい。またストロメクトールは、確実な診断の下でのみ内服すべきで、それ以外には、施設内や家族などで集団感染の可能性が極めて濃厚な場合に、的確な計画の下で「一斉治療」の形でのみ使用すべきです。

近年所沢近辺で、疥癬は珍しい疾患ではなくなりました。疥癬の痒さは大変辛いようで、診断前には、毎日すさまじい痒さに苦しんでおられます。早期発見・早期治療で、患者さんの笑顔を取り戻して下さい。

--

余談 「ノルウェー疥癬」(=角化型疥癬)の謂れ

1848年ノルウェーの医師が、ハンセン病患者に見られた著しい角化性病変を伴う疥癬症例を最初に報告したのに因んでこの名がつきました。

当時ノルウェーの海岸部を中心に、ハンセン病患者がたくさん出ていました。1800年代初期、ナポレオン戦争に巻き込まれたノルウェーは、苦しい戦いで餓死者が続出するほど国が荒廃し、それ以前にはほとんど消滅していたハンセン病が急増してきました。その後国の復興と共に急速に患者数が減り、1940年以前に新患者はほとんど出なくなりました。治療法の何も無いこの時代に、環境の変化に伴って増減するのもハンセン病の特徴の一つです。ちなみに、皮膚科医のハンセンがらい菌を発見し、病原体として報告したのは1873年です。

--

文献
1) 日本皮膚科学会雑誌.115:1125~1129.2005
2) 日本皮膚科学会会誌.117:1~13.2007
3) 疥癬はこわくない. 医学書院.2002
4) http://www.scabies.jp/(図1,2を引用)